2016年3月15日 8:25 am
カテゴリ: 活動報告
編成のあり方と、今後の財政運営を問う
Q、中川ゆう子
国の経済政策、いわゆるアベノミクスが地域経済と県民の暮らしになにをもたらしたのか、暮らしの実態について申し上げます。「アベノミクス」は大企業の利益を増やせば、それが国民にしたたり落ちて経済全体が好転するトリクルダウン政策です。法人企業統計によれば、たしかに資本金10億円以上の大企業の利益は25年度、26年度と連続して史上最高を更新しています。しかし、労働者の賃金は上がっていません。厚生労働省の統計(毎月勤労統計)では、例えば昨年11月と3年前の11月を比べると、名目賃金は同じ水準ですが、物価上昇を差し引いた実質賃金で見てみると5%のマイナス。勤労者世帯の実質収入でも同じような結果となっています。昨年度は、大企業が史上最高の利益を更新していながら日本経済全体はマイナス成長という、戦後GDP統計が始まって以降、初めての事態となりました。今年度はまだ終わっていませんが、大きな改善は見込めないと言われております。
年金生活者はどうでしょうか。今年度は年間通じて消費者物価の上昇率は0.8%でした。そのまま適用すれば新年度の年金は増額されるはずでしたが、過去の賃金変動率がマイナスだったために年金額は据え置き。新年度は後期高齢者医療保険料の改定の年で引き上げられるため、年金の手取り額は減るという方が多いと考えられます。
こうした暮らしの実態は、7月に発表された(第38回)県民世論調査の結果にも表れています。暮らし向きが前の年に比べ「変わらない」と答えた人が50.1%と最も高く、「生活が苦しくなった」と答えた方が44.9%と2番目に高くなっています。こうした状況の防波堤になり県民の暮らしに寄り添うのが自治体の役割であり、多くの住民が期待しています。予算の使い道の基本はこういった住民の日常生活に根差した所においてほしいと考えます。新年度予算の中には、多子世帯の保育料支援制度の県独自の上乗せ支援、生活に困窮している世帯の子どもの学習支援、県出身大学生のUターン促進のための奨学金免除制度創設など、県民の思いに応えた事業の新設がみられ、期待しているところです。
いくつか予算内容について述べたいと思います。今申しあげた奨学金については、一方で教育委員会の奨学金返済について滞納整理を民間委託する予算が計上されています。もちろん悪質な滞納には厳しく対応すべきですが、現在、日本学生支援機構による奨学金の無理のある返済計画の強行、無利子の奨学金に多額の延滞金、財産の差し押さえなど、かつての奨学金本来の目的からかけ離れた在り方が問題になっています。日弁連が秋に行った奨学金ホットラインには1日で773件の相談が寄せられたといいます。その内容からは、月収16万の中から毎月5万円の返済、毎月返済しても延滞金がかさみ元本が減らないなど、滞納の実態が、悪質な滞納ではなく、不安定雇用や低賃金が背景にあることが判明しました。県教育委員会の奨学金は、日本学生支援機構とは違いますが、返済者の実態を行政自ら掴むことが必要ではないかと思います。それこそ、自治体の役割だと感じるところです。
中小企業・小規模企業関連予算は、「地場産業・モノづくり振興対策費」「中小企業活性化支援事業費」「中小企業振興費の新産業育成対策費」など多々ありますが、軒並み同額か減額です。小規模事業者の事業承継支援強化費が新設されていますが、725万と他事業費に比べると少額という印象です。今議会に中小企業・小規模企業振興条例が議員提案で上程されました。企業誘致自体は否定しませんが、企業誘致で税金や設備投資で優遇されるのは比較的大きな企業であり、県内の多くを占める小規模企業に光を当てる支援策も必要と感じます。
公共工事について申し上げます。新年度の大型公共事業をみると、国の直轄事業や国に替わって県がすすめる事業であるにも関わらず、国庫からの支出金は少なく、県の借金、県債の発行が目立ちます。新年度予算資料によると、例えば幹線道路等の整備では、国庫約35億円、県一般財源約17億円、県債約302億円、負担金約8億円。県土強靭化に資する道路ネットワークの整備および機能強化の財源内訳は、国庫約34億円、県一般財源約11億円、県債282億円、負担金約4億円。
もちろんこの中には県民の要求を受けての事業も含まれていますが、予算配分として、限りある財源は命の危険がある部分に重点を置くべきです。県土整備部の予算資料にも「今後、施設の老朽化が急速に進行する事から、従来の対処療法的な維持管理のみでは、通行に支障をきたすだけでなく人的・物的被害の発生も懸念される」とあるように、道路、橋梁、トンネルの県の管理は全国トップクラスであるため、老朽化対策や急傾斜地、河川など自然災害対策こそ重要緊急課題であると考えます。しかし、新年度予算では、たとえば道路施設維持管理に関する予算は約166億5000万円から約154億円に減額されるなど、優先順位が逆であると指摘せざるを得ません。これら事業に国が予算を少額しかつけないことも問題ではありますが、県としてこうした在り方に異議を唱え、予算配分の重点を移していく必要があると思います。(補正合わせると、188億円)
一方、不要不急の事業やイベント関連予算が目立っています。職員を巻き込んでのイベントの在り方については疑問があります。自治体の本来の仕事は派手なものではなくなかなか目に見えづらいことではありますが、大切なことです。先の世論調査によると、特に重要だと思う県の施策は、高いものから、「防災対策」「高齢者福祉」「地域医療の確保」の順になっており、県民の日々の暮らしを守る役割に期待が高まっています。少なくとも前年より地方税の増額や国の交付金で財源はあると思われます。
(1)県が果たすべき役割から見た予算配分の優先順位を含む、今回の予算編成の考え方について
知事へ質問
指摘申し上げたように、暮らしの実態からみて自治体の役割は非常に大きくなっています。また、社会資本の老朽化や耐震化、防災事業など、今後さらに財源は必要になってくるのは明らかです。不要不急の事業を見直し、命を守るという点を最優先することこそ本来県が果たすべき役割と考えます。苦しんでいる人々に光があたるよう予算配分をする必要があると思うがいかがでしょうか。知事の答弁
予算配分の優先順位と当初予算編成の考え方についての質問でございます。平成28年度当初予算編成でありますが、県が直面する様々な政策課題などを踏まえて、県に求められる役割、各事業の実施の必要性・緊急性、財政への影響などを考慮して、県民の皆様の立場、目線に立って、政策の優先順位を考えながら編成したところでございます。これらを「『清流の国ぎふ』創生の本格展開」の4つの大きな政策の柱に沿って整理し、お示しをしているところでございます。その中で、第1の柱であります「ひとを育む・ひとにやさしい社会をつくる」では、例えば、議員ご指摘のような介護職員の確保では、介護職員の復職を支援する助成制度を創設するほか、子育て支援では、第3子以降の児童に係る保育料の無償化制度の創設、学校教育では、高校生を中心として主権者教育の充実などを図ることとして、さらにTPPの発効を見据えて「攻めの農業」を展開する上で農業の担い手の確保が喫緊の課題であります。このため例えば、全国農業サミットを開催し、これを契機に一段と取り組みを強化してまいります。
また、第2の柱であります「しごとをつくる」では、小規模事業者等の事業主の高齢化の進展を踏まえ、新たに、商工会連合会が実施する事業継承相談窓口の開設、商工会・商工会議所が行う事業継承に係るセミナーなどの開催を支援するとともに、小規模事業者が依然厳しい経営環境に置かれる状況を踏まえ、県制度融資の貸付枠を確保しているところでございます。
第3の柱であります「岐阜に呼び込む・まちの魅力をつなぐ」では、県出身大学生等のUターン促進のための奨学金制度を創設するなど若者の支援を行うとともに、これまでの首都圏に加え、名古屋、大阪にも移住相談拠点を設置するなど、移住定住の更なる推進を図ってまいります。更に、国内外からの観光誘客の強化や交流人口の一層の拡大、広域観光の推進を図るため、たとえば関ヶ原古戦場の整備を進めてまいります。そして、その進捗に合わせて、「変わる関ヶ原」をアピールし大いに集客力を高めてまいりたいと思います。
また、第4の柱であります「安全・安心をつくる」では、へき地診療の所への医師派遣制度の創設など地域医療の充実や、介護施設の整備促進、医療と福祉の連携による在宅支援体制の充実を図るほか、高齢化が進展する中で、県民挙げての健康増進の取組みが重要になっているところから、本県と致しましては初の全国レクリエーション大会を誘致し、42市町村すべての参加のもとで開催することとしております。加えて、防災情報通信システムの整備、社会インフラの老朽化対策や治水対策、土砂災害対策など人命を守る対策などにも3月補正を含めて、安全安心の基盤づくりに鋭意に取り組んでまいります。なお、平成28年度当初予算編成にあたっては、限られた財源の中で、より効果的・効率的に事業を実施する観点から、既存事業について事業効果等を検証したうえで、一定の目的を達成したものなどで159事業を廃止したほか、事業内容の改善や効率化を図る観点から、21事業をスクラップし、13事業を新たにビルドするなど、事業の見直しを行ってきております。
(2)新規の県債発行額及び県債残高に対する見解と今後の財政見通しについて
知事へ質問
借金である県債の新規発行額について申し上げます。新規発行の県債は1156億円。県債残高は1兆5200億7800万円となり、国勢調査の結果からみると県民一人あたり約74万円となります。臨時財政対策債を除くと9,400億円となり、県の年間の予算規模を大きく上回っています。これからの社会は、人口減少、社会保障費や老朽化対策に多くの財源が必要であり、こうした将来にわたる財政負担は、住民にしわよせになる恐れがあります。実際に起債許可団体から脱却するための行財政改革では、平成22年度から3年間にわたって、県事業の見直しや補助金の削減などで約860億円削減されたと聞いております。その中には県民の福祉医療費など命に直結するものもありました。また、そのうち約292億円は人件費の削減であり、県民、職員に大きなしわ寄せがありました。これまでの取り組みにより、持続可能な財政運営への道筋が付きつつあるとのことですが、過去を教訓にしていただき、多額の県債発行には慎重になるべきと申し上げます。これまでと変わり新年度は多額の県債発行が予定されております。しかし、今後の財政見通しも厳しいと思われ、再び県民や職員にしわ寄せがくるのではと懸念しているところです。不要不急な事業の縮小、見直しなどで、県債発行には慎重になるべきではないかと思いますがいかがでしょうか。
知事の答弁
本県では、過去の県債の大量発行により、平成21年度決算において実質公債費比率が18%を超え、起債許可団体になるとともに、平成23年度決算では、実質公債費比率は19.7%に至るなど、県財政は多額の財源不足が見込まれる危機的な状況となりました。このため、平成21年度から平成24年度までを緊急財政再建期間と位置付け、特に県債発行には節度を持って対応した結果、交際費では平成21年度をピークに、平成28年度当初予算を含め、7年連続で一貫して減少しております。こうした公債費の減少により、平成25年度決算をもって起債許可団体から脱却するとともに、平成26年度決算における実質公債費比率は、15.3%まで減少いたしております。
また、県債発行残高につきましても、地方交付税の代替財源として制度化されている臨時財政対策債を除きますと、平成20年度末をピークに、8年連続で減少しているところでございます。他方、平成28年度の臨時財政対策債以外の県債発行額は、対前年度にしまして71億円増の726億円を計上いたしております。この71億円増は、本格化する防災情報通信システム整備と、ピークを迎える東海環状自動車道西回り区間の整備の県債、この2件だけで120億円増加するわけでございまして、その傍らで、他の公共事業等を縮小したことによってこの数字になっておるということでございます。今後の県債発行につきましては、防災情報通信システムの整備終了などの減少要因が一方でございます。他方で平成32年度までの完成を目指す東海環状自動車道西回り区間整備の問題、あるいは、本格化する中央子ども相談センターの移転事業などの増加要因もございます。
いずれにしても、これまでの行財政改革の過程で、県民の皆様、あるいは職員の皆さまに大変ご苦労をおかけしたことは重々承知しておりますし、また申し訳なく思っている訳であります。こういったことから、これまでの経験に鑑みて、将来負担を十分考慮しながらの事業の優先度を見極め、不要不急の物は見送るなど、引き続き節度を保った財政運営を行ってまいりたいと考えております。